突発的な発作の先にある、特別引き出し権(SDR)について
珍しく、ブログ執筆のペースが上がっています。絶対に、長続きしないので、突発的な「発作かなにか」だと思ってください。
脱ドル化の行方
昨今、いわゆる陰謀論者界隈以外でも、「脱ドル化(de-dollarization)」に関する言及が増えてきました。一般的には、「ドルに対する依存度が、“段階的に”減少すること」だとか、「もうきっぱり、ドルを使うのやめちゃうよ」的な意味合いを含み、若干広い解釈をもって理解されています。
2023年の6月段階においては、前者の状況にあります。つまり、ドルが完全に「主要通貨から外される」されるような状況にはありません。今後、恐らく「前者の状況」が改善する、これまでの姿(ドルへの依存)に戻ることは考えにくく、昨今の米国政治の体たらくさをみていると、「虫唾が走る」、そのような不快感を示す、各国の指導者もおられることでしょう。
ただ、国際経済の土俵に立ってしまうと、左記のような「あいつ、ムカつくから」などといった理由で、怒りの矛先にある国の産品を買うのをやめる、付き合いをやめるといったことは、現実的ではありません。つい数年前、西側の国々が中心となり、「ロシア、ムカつくから、付き合うのやめようぜ」と円陣を組み、実際に行動に移したわけですが、思いの外、「ロシアにダメージを与える」ことはできませんでした。それが、感情論で衝動的に他国を虐めることの無意味さの証左です。
特別引き出しクーポン
最近、「貿易の決済手段としてのドルが使われなくなったら」といった、想定すべきシナリオについて考えています。筆者は、経済の専門家でも、事情通でもありませんので、その辺りは、少しずつ本を読んだり、ネット上の事情通から指導を仰ぐしか、学ぶ手段はありません。
そういった研究を続けていく中で、面白い概念をみつけました。それは、「特別引き出し権(SDR)」です。本家 IMF の定義によると、
SDRは、IMFが加盟国の公的準備を補完するために創設した国際準備資産です。SDRは通貨ではありません。IMF加盟国の自由に使用できる通貨に対する潜在的な請求権である。そのため、SDRはその国に流動性を提供することができます。SDRは、米ドル、ユーロ、中国元、日本円、英ポンドの通貨バスケットで定義されています。
といった意味合いを付与されているようです。「潜在的な請求権」であるとはっきり言及されていますので、もはや、この思想は、「強き者が、弱き者を守るための救済手段」ではなく、「金持ちが、安心して弱いヤツらにカネを貸せるようにするための(相場変動、与信)リスクヘッジ手段」である可能性があります。よくわかりませんが。
実際に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田副主任研究員が、『マクロ経済の視点から見たウクライナ問題~「テイクオフ」への展望を描くことができない』と題し、これまで、IMFがウクライナに対しての“投資”をちらつかせる一方で、国有企業の民営化など、“流動性の確保”を建前として、国内の経済運営方針の転換を迫ってきたことが描写されています。(このシナリオ、どこかの国の民営事業でも、同じようなことが喧伝されていた気がします。)
要するに、今般の“侵攻騒ぎ”は、ロシアが突発的に起こした言いがかりでもなんでもなく、利権保有側が展開した、「脆弱性の高い国から、美味いところを搾り取る事業」の一環でしかないのだと思います。キレイごとを並べて、あたかも一枚岩で世界運営をしているかのように振舞う大国ですが、ホントのところは、儲けたい。単純に、儲けたい。そして、実際に儲かり、コトの落としどころを模索している。しかしながら、今撤退してしまうと、国内の求心力を失い、自分自身の生存の危機さえ担保できないような国家元首が、山ほどいるわけです。だから、やめられない。
みんな儲けたいよね
IMF プレスリリースによると、「2021年8月2日、国際通貨基金(IMF)の総務会は、国際的な流動性を促進するために、6,500億ドル相当(約4,560億SDR)の特別引出権(SDR)配分を承認した」そうです。また、「新たに配分されるSDRのうち、約2,750億ドル(約1,930億SDR)が、低所得国を含めた新興市場国・発展途上国に配分される」ともあります。
参照: 『IMF総務会、6,500億ドル規模という特別引出権の歴史的な配分を承認』
字面だけ追っていくと、「これで、貧しい国も困らずに、みんな平和にやっていけそうだね」といった牧歌的な世界観を見事に描写できています。しかしながら、この“特別引き出し権(券)”の配分は、IMFへの貢献度(拠出金額)に準じて、行われるものと定義されています。また、この“券”は、「他の人に配る(融通する)ことができる」そうです。実体経済に紐づいた通貨ではなく、仮想通貨ですから。
つまり、「困ったよー。えーん、えーん。」と泣き喚いたところで、お金が降ってくるわけでもなく、その“券”を持っている人たちに、「恵んでください」とお願いをしないとならないわけです。時には、「なんでもしますから」といった隷属関係を提示しなければなりません。
外貨が不足して対外債務の支払いが苦しくなった国の政府は、ドルなどの自由利用通貨を保有している国の政府にSDRを渡して、通貨に交換してもらうことができる。また、対外債務の支払いを、直接SDRで行うことも可能だ。支払い手段という点では通貨と同じ機能を持つSDRだが、紙幣などはない帳簿上の存在で、使用範囲はIMF加盟の政府間のみ、民間取引では使えない。SDRはIMFという観光協会が発行し、加盟国に配っているが、使用範囲が限定された特殊なクーポンなのだ。
参照: imidas 『目からウロコの経済用語「一語千金」: 特別引き出し権(SDR)』
同記事でも言及されていますが、2016年10月、IMF通貨バスケットに、人民元が盛り込まれることとなりました。現段階(2023年6月時点)での各通貨の構成比率は、ざっくり言ってしまうと、米国4割、欧州3割、中国1割、日本と英国で1割強のようです。IMFにおける日本のプレゼンスは、中国より小さいということになります。
外貨準備高減らすぞ
昨今、台湾有事を危惧する方面から、「中国が保有する米ドル、米国債の行方」に関する言及があります。ともに、漸次減らす傾向にあり、現物資産としての金の買い増しも、推進しているようです。
中国人民銀行(中央銀行)が7日発表した2023年1月末の外貨準備の内訳によると、金の保有量は約2025トンと22年12月末から0.7%増えた。3カ月連続の増加だ。…米国債の保有を減らしており、ドル離れを進めている可能性もある。中国税関総署によると、22年の金の輸入額は766億ドル(約10兆円)だった。前年から6割増え、確認できる17年以降で最高を更新した。…一方、米財務省によると、中国が保有する米国債は直近22年11月末時点で8700億ドルと1年間で2割減った。
参照: 日経新聞オンライン 『中国、金保有3カ月連続増 世界的インフレでドル離れか』
ちなみに、我が国の外貨準備高は、財務省がウェブ上で公開していますので、その内情を垣間見ることができます。
参照: 財務省 - 外貨準備等の状況(令和5年5月末現在)
- 外貨 - 1,126,383百万ドル
- IMFリザーブポジション - 10,626百万ドル
- SDR - 58,304百万ドル
- GOLD - 53,430百万ドル(27.20百万トロイオンス)
先月時点で、「SDRの価額(140円換算)は、8兆円ほどある」という認識で間違っていないでしょうか。金の重量に関しては、845トン程度保有していると考えてもよろしいのでしょうか。(筆者、数字にめっぽう弱いので、間違いがあれば、ご指摘ください。)
ここまで引っ張って、結局、特段オチを用意していないのですが、今後仮に、ドルの価値が暴落して、ドル札が枯渇しても、「我が国には、SDR 8兆円分の資産があるから、大丈夫!」ということでしょうか。果たして、日本国内に金塊845トンが保管されているのでしょうか。よくわかりません。
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