【後編】米国の銅鉱山開発計画とその周辺の出来事(無駄に長いよ)

前編のつづきです。

さて、“気球”が撃ち落されました。そして、実は、「これまでにも同様の“インシデント”が確認されていたものの、世間の耳目を集めることはなかった(事を荒立てない選択がなされてきた)」ということも、報道されました。

事の顛末としては、気球が米国に発見され、中国政府は、「ごめん、ごめん!それ、たぶんうちの“民間”で使ってる、気象観測で使う気球だわ。偏西風に乗って、そちらまで届いてしまったみたい。そんなに怒らないでよー」と、テヘペロ攻撃をしていたら、思いの外、米国側が塩対応するので、「なんだよ!そんなに怒らなくても…とりま、“遺憾の意フラッグ”挙げちゃうからネ!」、みたいなやり取りをしていたわけです。

そうしたら、国内の反中感情に耐え切れなくなったバイデンが、「アワワワワ…ガクブル、ドーン!」みたいな感じで暴挙に出てしまった(?)。最終的に、中国政府は、「強烈な不満と抗議」を行うぐらい、激オコプンプンになってしまいます。

東急総合研究所 『8段階の外交表現

この件、そもそも誰が悪いんでしょう…。妄想でしかないですが、もしかしたら、ブリンケン訪中の際に、なんらかの核心的な新たな動きが予定されていたのか。それを阻むための国内勢力の工作…なのか、人民解放軍独自の変則ムーブメントなのか…。間違いないのは、空ではなく、水面下で大きな動きがあったということでしょう。

銅を重要鉱物のひとつとして認定したらどうだろう

MINING.COM 『重要鉱物に指定されるための銅の闘いが政治的に後押しされる (Copper’s fight for critical mineral status gets political push)』

ここで何が希求されているのかというと、「亜鉛だの、ニッケルだのは、既に重要鉱物にカウントされてるのに、なんで銅はまだなんだよー!認定してよ。(相場が、バチコン上がって、銅が手に入らなくなっても、うちら知らないよ)」ということを、サプライサイドと、彼らに隷属する政治家の皆さまが、わーわー言っているのであります。

その渦中にいる人物が、元・民主党所属、現・無所属のカーステン・シネマ議員(アリゾナ州選出の上院議員)と、デブ・ハーランド内務長官であります。ご両名については、後述します。

アリゾナ州の無所属議員であるカーステン・シネマ上院議員は、木曜日に他の議員と共に、内務長官デブ・ハーランドに「銅を重要鉱物とすることを再検討する」よう要請する書簡を送りました。署名者には、アリゾナ州のマーク・ケリー、ウエストバージニア州のジョー・マンチン、インディアナ州のマイク・ブラウン、ジョージア州のラファエル・ウォーノック、ユタ州のミット・ロムニーなど、地元が銅生産・製造の中心地である上院議員も含まれています。
これとは別に、ニューヨーク州のブライアン・ヒギンズ下院議員(民主党)とオハイオ州のロバート・ラッタ下院議員(共和党)も2月2日、ハーランド社に対し、銅を重要鉱物とすることを直ちに再考するよう求める書簡に署名しています。
銅開発協会(Copper Development Association)は、米国政府に対し、銅を重要鉱物とするよう働きかけ、すでに政府が重要鉱物として認定している他の50種類の鉱物のリストに加えるよう要求しています。同協会の会員には、リオ・ティント・グループ、BHPグループ、フリーポート・マクモラン社などの大手銅生産者や、ミューラー社などの加工メーカーが含まれています。
米国の重要鉱物リストは3年ごとに更新され、ニッケル、リチウム、亜鉛など電気自動車生産に必要な主要バッテリー金属が含まれています。2022年の最新の更新では、ニッケルと亜鉛は追加されたものの、銅はロビー活動にもかかわらず含まれませんでした。上院議員らはホワイトハウスに対し、通常の3年間の見直しを省き、できるだけ早く銅をリストに加えるよう求めている。

銅開発協会が送った内務長官宛の書簡 (PDF) は、下記よりDLできます。

https://www.copper.org/copperiscritical.org/letters/final-support-organizations-letter-to-doi-feb-2023.pdf

アメリカ合衆国内務長官、デブ・ハーランド(民主党)

この方は、ニューメキシコ州出身。史上初の「ネイティブアメリカン・女性・内務長官」だそうです。見事に、“グリーン・ディール”推しとのことで、これまでのオバマ政策を継承しています。実際に、彼女は、昨年の5月、ミネソタ州北東部に存在するニッケル銅鉱床の採掘プロジェクトにNO!を突き付けています。

同プロジェクトは、オバマ政権時にストップ、トランプ政権時に再開、バイデン政権時にストップがかかっています。最近、内務省長官が、同鉱床を有する公園を管理する州政府に対して、900万ドルもの拠出を行うことを決定した模様です。(つまりは、単純に共和党の利権なのさ。)

参照: 『内務長官Deb Haalandは、Twin Metals鉱山建設予定地の影響を受ける地域を訪問することに前向き (Interior secretary Deb Haaland open to visiting region affected by proposed Twin Metals mine)』

ただ、ここで刮目すべき事実があります。それは、「ニューメキシコ州には、フリーポート・マクモラン社の銅山がある」ということです。同社が、内務省長官とどのような関係にあるのか、知ったこっちゃないですが、支持基盤である地元企業として、少なくとも多少の利害関係はあるはずです。

元・民主党所属、現・無所属のカーステン・シネマ議員

この方は、結構、筋金入りのくせ者でして。民主党所属の際には、党が推進する投票に対して造反するなど、存在自体が問題視されていた模様。特に、現在のような、上院における議席配分が拮抗している状況下、「民主党と民主党と共に投票する無所属議員が51人」である現状を考えると、彼女の“奇行”がもたらす影響は、計り知れないわけです。

参照: BBC 『米民主党のシネマ上院議員、無所属に 上院の民主党多数は変わらず

彼女の支持者は、「第二のジョン・マケイン路線」を模索しているようですが、一部の地元批評家からは、『カーステン・シネマはジョン・マケインではない (Kyrsten Sinema is no John McCain, try as she might)』といった評価を得ており、民意による支持基盤は盤石ではないことが考えられます。次の選挙では、共和党、民主党、シネマの三つ巴の戦いになることが有力視されており、事前の調査でも、「シネマが上院の座席を得ることは難しい」といった烙印が押されているのが現状だそうです。

参照: 『新しい世論調査:アリゾナ州上院選でGallegoがトップランナー、Sinemaは勝利への道なし (New Poll: Gallego Is Frontrunner in AZ Senate Race While Sinema Has No Path to Victory)』

風見鶏シネマと銅スクラップの潮

ここまでくると、シネマ上院議員が高らかに宣言した、「銅は、国体を維持するための重要鉱物である」といった崇高な綱領も、結局は、大企業のロビー活動の成果のひとつでしかないことを想起させます。支持基盤を盤石にしたい政治家が、それら企業群に群がり、私腹を肥やす旧態依然の利権構造は、変わっていません。

かつて、筆者は、当ブログにて、『米国における戦略物資としてのベースメタル、レアメタル(4/30/2020付)』という記事を投稿しました。その当時から、米国における銅山の新規開発やら、製錬所の建造等は、そこかしこで議論されていたと記憶しています。

米国での銅精錬事業が再興し、スクラップの潮流が同国に向いていくのではないか

なにを根拠に、このような妄言を口ずさんだのかさえ、記憶にございませんが、今となっては、「潮流の変化」は、十二分に起こり得るハナシであると考えています。米国でもそうですが、日本でも、製錬業界における「これまでの商習慣」のような概念が、一気に刷新される可能性は、至る所に潜んでいます。

場所が変われば、人も変わるでしょうし、お金の流れも変わってゆくのかもしれません。もっと言ってしまえば、今まで、「あそこに持っていけば、〇〇円で売れたもの」が、突然、ふとした瞬間に価値を生まなくなる可能性だって、大いにあります。逆も然りです。

シネマ女史が、今後も上院議員を続けているのか否か、そんなことは、知ったこっちゃないですが、確実に、「米国における新規銅山開発が、喫緊の課題として保守層に希求されている」ことは、間違いありません。確かに、“グリーン”な金属素材の開発、副次的な要素としての温室効果ガスの低減などは、民主・共和いずれの政権になっても、続く道なのでしょうが、「真の意味でグリーン」な生産活動を行うには、スクラップだけでは成立しません。

鉱石を使った精錬があってこそのスクラップ原料です。スクラップ業界、ひいては、静脈産業に対するインセンティブや、長期的な展望あってこその鉱山開発です。激動の時代に突入するものと考えていますが、中小零細が抜きんでるには、絶好のタイミングであるとも捉えています。欲しがりません、勝つまでは。

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