中国向けスクラップ輸出、溶かせばいいのか

思うところ、たくさんありますが、昨今の中国向け輸出、もちろんスクラップのことですが、至る所で様々な、いわゆる"ポジショントーク"が飛び交っていると思います。業界関係者の皆々様、特に有名な方の発信するSNS情報を拝見するに、正直なところ「やべえ、俺のところに全然情報入ってこねえ」的な焦りのようなものがあり、「あー、でも、なんか言わなきゃな」的な使命感に苛まれているような感じがします。

おれ、東南アジアでインゴットつくるよ!

一部では、「東南アジアでは、中国向けのインゴット製造(非合法)がはじまった!(どや)」みたいな言質を以って、あたかも新たな動きのような説明をされる方がおられますが、いかがなものでしょうか。そもそも、いわゆる合法、非合法問わず、彼の国々ではそのような"錬金術"は、一般的に行われてきたと思います。決して、今に始まったこと、これから主流になる動きではないと思います。そして、日本ではコストの面から採算がとれないのだから、多くの行き場を失ったスクラップが、彼の地へ向かうはずだという考えも、いささか表現が暴力的と言いいますか、短絡的であると思います。

統計を見ればわかることですが、中国は南米やアフリカから粗銅を買っています。もっと言ってしまえば、日本の精錬も同じことをやっている。国は違えど、「ある程度の銅品位が見込めて、銅以外の金属も得られる、安い半製品」に対して、世界の需要家が群がっているのが、今の現状です。「いや、まさか。国内市中からスクラップ買わないのに、なんでわざわざ輸入するのさ!」と言われましても、私は知ったこっちゃないです。

なぜ、このような批判的な態度をとるかというと、「溶かしてドーン!」的な品位の低い「"闇鍋"をやったあとの残り」と、冶金学上の原則に基づいて「砲金粉で…真鍮粉だと亜鉛の…電磁攪拌で成分が…足は何本出す…」などとヤンヤヤンヤ試行錯誤しながらの原料としての製品づくりが一緒くたにされている様子が、なんとも歯痒いからです。

今後の中国向け輸出のあり方を妄想する

はい。こちらに、中国の輸入関税表、銅関連があります。

これまで、いわゆる「銅のスクラップ」は、盲目的に「銅のくず(HS#:7404)」として輸出されていたものと思われます。

少し脱線してしまいますが、中国側での「銅のくず」への理解って、実はこうなんですよね。

  • "Waste electric machines, waste wires, cables, mainly for recovering copper"
  • 「廃電気機械、廃電線、ケーブル、銅の回収を主とする」

要は、"彼ら"の理解の中では「銅のくず」ではなく、「銅を回収するためのくず」であるということです。まあ、どうでもいい話っちゃあ、どうでもいいんですが、今後の方針を占う上で、"解釈"の仕方、され方を理解することって重要だと思うんです。

閑話休題。この関税のテーブルを舐め回してみると、興味深い側面が浮かび上がります。「おらが出荷したコンテナの中身は、セメントカッパーだべさ」と言えば2%の関税がかかり、「あたしのは、銅のマスターアロイなの」と言えば4%。そして、「私どもが供給させていただいたのは、銅精鉱です」と言えば、関税はかかりません。噓も方便、銅における数パーセントの違いは、非常に大きいですからね。極め付けは、"HS#7204.5000.00"です。鉄のスクラップの括りの中に、"Remelting scrap ingots(鋳込スクラップのインゴット)"という区分があるようです。当然、関税はかかりません。仮に、銅を含有するインゴットの関税率に変化があれば、表現を変えて関税逃れを試みる筋も出てくるのではないでしょうか。

今後、仮に6類が完全禁止になり、成分が確かなもの、先方が仰る"原料"しか流通しなくなった場合、なにが起きるのでしょうか。個人的な感覚論で恐縮ですが、筆者が税関の人間で、「手堅く、間違いなく税金を獲得する方法はないか」そのように考える必要に迫られた時、恐らく上司に提案するとしたら、「あのお、やはり、拡大解釈できる表現はやめるべきだと思うんです」などと言うかもしれません。

これまで、なぜに中国へのスクラップ輸出が魅力であったかといえば、"雑"であったからだと思うんです。(単価云々の話は、プレイヤーが増えることで価格競争の原理が働き、買い手の必要以上にそれが上昇したことにあるので、真の魅力ではないはずです。現状をみれば、銅相場が上がれど、スクラップ相場は追随しない。端的に物語っています。)

雑多であることの魅力

我々は、"雑品"、"雑線"、"込中"などと簡単に表現しますが、なにを以って、"雑多なクズ"とするのか、なにが"込み真鍮"なのか、さっぱり判然としません。程度の良いものもあれば、悪いものもある。"雑"とは、つまるところ、それ以下でもなければ、それ以上でもない。単なる"半原料"なわけです。手をかけなければ、なんの"原料"にもならない。手をかける手段がなくなれば、ただの"ゴミ"でしかないのです。

実際に、6類の中でも、"上物"と呼ばれる、素性がある程度確かなものは、存在します。個人的には、その類は特別扱いにすべきであって、輸入禁止の除外アイテムに処されるべきであると考えています。但し、込銅(ISRI基準で言うところの"Birch/Cliff")なんかは、結局なところ"miscellaneous(=雑多である)"が基準の中で認められています。こういった不確定要素、かつての"旨味"は、おそらく排除されるであろうと思いますし、されなくとも厳しい目が向けられることとなり、なんらかの制裁を受けるようなリスクが出た場合においては、買う側も売る側も、当然のごとく躊躇するでしょうし、流通も細くなると思います。

今まで、込銅を高値で買っていた需要家(精錬所)にとっても、銅鉱石・精鉱は安く自国の権益で手に入るし、安い加工費で精錬できる。粗銅、ブリスター、セメント、マット、どんな形状でもいいですが、そういった類のものであれば、世界中から安定的に集荷できる。冷材用途のスクラップも、恐らく自国内での発生であらかた補えるでしょうし、必要があれば、確かなものを妥当な値段で日本から買えばいい。それぐらいにしか、需要家側のインパクトはないと思います。(あくまでも、妄想です。)